"不夜の郭"カタスクニ
- 知名度
- 形状
- カテゴリ
- 製作時期
- 概要
- 効果
-
# カタスクニの歴史
▼カタスクニの歴史
カタスクニの歴史について、あまり詳しいことは伝えられていません。
というのも、それらを伝える文書や資料は、殆どが統治機関である<陰陽寮>の管轄下にあり、彼らはそういったものを秘匿するかのように自らの下へ集め、部外者はもちろん、住民や、当の職員たちにすら公開することを拒んでいる為です。
従って以下の概略も、古い住民や冒険者たちの記憶や口伝えによる曖昧な情報をまとめたものとなるため、正確性はあまり期待できません。
言い伝えによれば……この都市の起源は、今からおよそ六十年前にまで遡ります。
当時、ケルディオン大陸東方の山間部は、いくつもの山々が連なるだけの寂れた土地でした。
ところがある晩、山間に突如として、天を衝くかの如き木造の尖塔が姿を現します。
まるで夜の帳の中から抜け出してきたかのように、誰も気づかぬうちに、その巨大な塔はそこに“存在していた”のです。
この土地に残る言い伝えと、後述する呪いの霧などの特徴から、いつしかこの塔は「黄泉の塔」と呼ばれるようになりました。
僅かに存在していた近隣の住民たちや、未踏の迷宮を探していた旅の冒険者たちは、すぐに調査へ向かいました。
塔の内部では奇怪な仕掛けや怪物が徘徊しており、その特徴や魔力から、この迷宮は複数の魔剣が絡む大規模な“魔剣の迷宮”であるという結論が出ました。
実際に、現在でも少量ながら魔力を帯びた武器の発見報告があるため、全てではないものの、迷宮の一部が魔剣によって作られていることは間違いないでしょう。
しかし、ここまでの事実を調べるだけの調査であっても、その継続は困難を極めました。
何故なら、塔の内部は常に、薄紫色の"瘴気の霧"に覆われていたためです。
それは生者の命を奪い、触れる者の心を蝕む禍々しい呪詛の塊で、対策無しに身を晒し続ければ、熟練の冒険者であっても一時間と経たずに斃れてしまう程に強力な、呪いの力に満ちていたのです。
調査を続ける内に、更に厄介な事実が判明します。
霧が徐々に塔の外部を浸蝕していることが確認されたのです。
最初はわずかな量でしたが、時間とともに霧は広がりつつあり、このままでは周囲一帯が瘴気に呑まれ、死の地と化すのは時間の問題であると判断されました。
この危機に際し、当時の冒険者の中でもとりわけ優れた魔術師として知られていた一人の女性――後に「”陰陽頭”ヨモツシコメ」と呼ばれることになる人物――が立ち上がります。
彼女の指揮のもと、冒険者たちは塔の周囲に大規模な封印術を施し、霧の漏出を抑え込むことに成功しました。
封印は成功し、瘴気の拡散は無事に抑えられました。
しかし、封印の維持には常に魔力の供給が必要です。
魔力を絶やせば、塔は再び瘴気を吐き出し、周囲を飲み込んでしまうのです。
この問題を解決するため、ヨモツシコメは一つの奇抜な策を立てました。
塔の前に小規模な居住区――すなわち「供給の街」を築き、そこを訪れる人々から少しずつ魔力を徴収して、封印の維持に充てようとしたのです。
ですが当初は修行者や研究者など、限られた者しか訪れず、街は閑散とした山中の集落に過ぎませんでした。
土地そのものも、痩せた山肌と鬱蒼とした山林ばかりで、大規模な農業には向かず、人を呼び込むにはあまりにも不便な場所だったのです。
そこでヨモツシコメは、二つ目の奇策として、自分たち以外の冒険者が迷宮を探索できるよう、塔の一部を解放すると同時に、塔のふもとに"娼館"を建て、人々の欲求と金、そして魔力をこの地へと集める仕組みを作り上げました。
一体どのようにして、施設とそこで働く従業員を集めたのか、その一切は全くの不明であり、中には「従業員は全てヨモツシコメの作成した魔法生物や使役する妖精(あるいは魔神や、ヨモツシコメ本人の分身であるという説まであります)である」と伝える資料さえありました。つまり、誰にも分からなかったのです。
娼館の名称もまた、語る者によってバラバラで、その他正確な規模や、そこで客を取っていた者の素性などは判然としません。
ただひとつ、その内容については、誰もが口を揃えてこう言いました――そこでは、どのような不道徳でも赦されていた、と。
結果、二つの策略は見事に的中します。
命を賭けて迷宮に挑み、一攫千金を夢見る者たち。
その稼ぎを手に、束の間の快楽を求めて娼館へ向かう者たち。
こうして街は急速に活気づき、封印を維持するに十分な魔力と資金が集まりました。
年月が経つにつれ、街は堅固な城壁に囲まれ、結界と娼館の二つの柱を中心とした独自の都市文化が形成されていきます。
そしてヨモツシコメは、いつしかこの地の実質的な支配者として、都市の制度・経済・宗教を統べる存在となりました。
こうして、瘴気を封じる結界都市にして、人の欲を受け入れる歓楽の都――すなわち「不夜の郭カタスクニ」が誕生したのです。
この街がなぜ夜を拒むのか、そしてなぜ今も瘴気を封じ続けるのか。
その理由を正確に知る者は、今も陰陽寮の奥深くにしか存在しません。